会長あいさつ

「変わりゆく学力観と教育メディア研究の方向」
     日本教育メディア学会 第8期会長 黒上晴夫(関西大学教授)

1.学習指導要領の改訂に向けた動き

次の学習指導要領改訂に向けた議論が始まった。議論は,高大接続の在り方の検討と一体的に進められている。それは,単に大学入試の方法を変更することではなく,高校生の学習,ひいては小中学校での学習を,より充実させる方向での検討である。
 両者の改革について重要なことは,2つある。1つは,どちらも学力観の変更を迫るものだということである。キーワードは,「資質・能力」である。 従来の学習指導要領は,「必要な教育内容を系統的に示」してきたのに対して,「育成すべき資質・能力を子供たちに確実に育む」ことを目指すというのである(学習指導要領改訂に向けた諮問:初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について)。現在の学習指導要領にも当然,教科内容だけでなく育成すべき資質・能力を幅広くとらえた記載はあるが,その両者の比重が変わると考えればよい。
 では,資質・能力とは具体的に何か。今のところ,以下の三つの柱が示されている。
  ①個別の知識・技能
  ②思考力・判断力・表現力等
  ③学びに向かう力、人間性等
 従来の評価の枠組み「関心・意欲・態度」「思考力・判断力・表現力」「技能」「知識・理解」が組み変えられたように見えなくもないが,「どのような力が身に付いたか」を多面的に評価することがより重視されるとみるのが妥当だろう。そして,その多面的な評価の方法が,高大接続の中でもさまざまな角度から検討されている。
 つまり,学習指導要領の改訂によって,授業で意識される学力の比重が変わり,それを受け止める高大接続の場面についてもそれが踏襲されるということである。ちなみに,高大接続について議論されているのは,大学への進学についてだけではなく,高等学校における学習の質を高める評価の在り方全般についてである。
 2つ目は,それが,「新しい」学習の仕方の導入を迫るものだということである。アクティブ・ラーニングと呼ばれている学習である。紹介されているアクティブ・ラーニングの手法はさまざまだが,その多くに共通するのは,学習者中心主義に光が当てられ,理解や考えを深めるために集団の力を利用するという点である。これらは,自ら課題を持ち調べて意見をもつ主体的な学びと,他者と考えを共有することによって考えが更新される協同的な学びという2つの要件としてとらえられる。

2.学習メディアとの関わり

これらの動きに関して,学習メディアはどのような役割を果たすのか。導入が進む大型映写装置やタブレット端末などのICTに関して,場面を分けてとらえてみたい。

1)考えをもたせる
 まず,学習者に各自の考えをもたせることが起点になる。ICTでは,紙の図絵ではできない拡大ができる。関心に応じて部分を拡大し,見えるようになったことをもとに考えをもたせる学習が可能になる。一人一人に異なる情報源にあたらせることも可能になる。個別に映像資料を選ばせたり,検索ツールを用いて調べ学習を行ったりする。
 考えを広げるためのイメージマップを描くようなアプリがある。シンキングツールを用いることで,各自の考えが明確になる。ICTは,アイデアを柔軟に動かしたり共有したりできるのが利点である。各自が能動的にアイデアを書き出し,動かして能動的に学ぶ。

2)考えを整理・分析する
 情報を集めた後は,その整理・分析が不可欠である。プレゼンテーションソフトでスライドを作る時,集めた情報が一覧されて,選択や分類,階層化などを経て整理され統合される。集めたデータを表計算ソフトに入れて,集計したり並べ替えたりすることもできる。グラフをつくることで,変化や関係を捉えたりすることができる。データベースを使えば,よりシステマティックに情報を選び出したり並べ替えたりすることができる。

3)考えを言い表す
 発表は,子どもにとってはハードルが高い。何かを写してそれについて説明する活動は,そのハードルを下げる。低学年からデジカメスピーチ(写真を撮って,それを説明する活動)で説明することに慣れ,学年進行にしたがって,実物投影機やタブレットPCを用いて資料やノートを写しながら考えを述べるような活動につなげていく。その中で,大事な所を矢印で指したり,部分的に大きく映すようなことも,自然に身に付ける。
 プレゼンテーションソフトを用いた発表では,伝えるためにどんな画面を見せて何を話すかを計画する。発表のシナリオを準備して参照しながらスピーチしたり,示した項目や図や絵を示しながらより自由に話すことも身に付けさせる。

4)他者の考えとすり合わせる
 個人の考えがグループやクラスで共有されると,自分の考えとは違う考えと出会うことになる。ICTを用いることで,一人の考えやデータを,他者とやりとりすることが容易になる。グループのメンバーがそれぞれのタブレットPCで集めた情報を,互いにやりとりして共有する。そうして広げた情報を,分類したり組み合わせたりしながら,協同的に考える。

5)記録をとってふり返る
 学習の締めくくりでは,それまでの学習をふり返って,各自が考えを再整理することが重要である。そのためには,学習の流れを写真やデータで記録し(いわゆるポートフォリオ),それらを一覧して学習事項の整理枠組みをつくり直したり,得た情報を位置づけ直したりする。ICTを用いて,学習のプロセスを逐一記録しておくと,これがやりやすくなる。

3.実践的な教育メディア研究の視点から

 ICTを使うには,主体的な操作が必要である。それが,主体的な学習を生み出すように思いがちだ。しかし,よく計画された課題や問いがなければ,時間ばかりかかる意味のない活動になりかねない。また,うまく他者と意見を交わらせ高めていくことも重要である。どのような目的で,どのような学習プロセスを経て,どのような考えをもたせるかを検討することが,何より重要だ。
 したがって,先の5つの場面に応じて,ICT活用に関する研究課題として,2つのことがのぞまれる。一つ目は,ICTの活用がどのような主体的・協同的な学習を生み出すのかである。ICTが提供するさまざまなツールやアプリは,学習をどのように主体的・協同的にするのか,学習者の行動をどのように変えるのか,学習成果にどのような影響を与えるのかについて明らかにすることは,新しいツールやアプリの開発も含めて研究課題となる。
 一方で,これから求められる学習の仕方において教師の役割が変化すると指摘されている中で,期待する成果をあげるために,どのような学習環境を提供すればよいか,教師はどう関わればよいかを具体的に示すことも大事な研究課題となる。
 この2点に加えて,評価とメディアとの関わりもこれから検討されていく必要がある。メディアを通して,学習成果を顕在化することができるのか,できるとすればどのような方法が望ましいかである。
 本学会が,これらの課題に対して大いなる貢献ができるように,現場とつながる研究をますます進めていって欲しい。

2015年12月2日