放送教育SIGは,研究テーマを「1人1台端末時代の映像視聴能力」と設定し活動を開始した。当面は,放送教育の歴史と成果を振り返りながら研究課題を整理し,今後を見据えていく。令和7年2月8日(土)にオンラインで開催した第1回研究会の概要を以下に記す。

テーマ「放送教育の温故知新」

  • 開催方法

放送教育の研究者,制作者,実践者それぞれの立場から放送教育の歴史と成果や課題を振り返ることができる話題を提供し,若い世代からの質問に答えながら課題を整理し,今後の見通しを持つことができるように行った。開催はオンライン形式だが,メインの配信会場に若手番組制作者や若手教員が集まり、話題提供の後に質問やコメントをする形式で進行した。

  • 参加状況
    ・登録者数51名(番組制作関係者,実践者(学校教職員),研究者,教育行政,全放連等)
    ・事後アンケートへの回答28件
  • 話題提供者と内容
    (1)「放送教育研究の意義と今後に向けて」  熊本大学 名誉教授 武蔵野大学 響学開発センター長・教授 鈴木克明
     放送教育の独自性が実践者と研究者と制作者が三位一体となって展開してきた学校教育改革運動としての側面を持つことについて話され,この伝統がVUCAの時代の教育を創造するためにも大きな意義を持つことから,放送教育の精神を継承するために「歴史を繰り返そう!」というメッセージが伝えられた。
    (2)「放送教育の歴史と制作者の関わり」  放送文化研究所 メディア研究部 宇治橋祐之
     キーワードとして「ラジオの時代」「西本三十二と放送教育」「テレビの時代:放送教育をめぐる論争」「実践者、研究者、制作者:放送教育全国大会」「デジタルの時代:NHKデジタル教材『おこめ』」を示し、放送教育の歴史的な変遷を解説した。
    (3)「放送教育実践者として番組利用に思うこと」                                             宮城教育大学教職大学院 特任教授 菅原弘一                                           番組を利用した実践経験を振り返りながら“個別最適”の時代に敢えて同じ番組を皆で一緒に見る意味や番組の“テーマ性”や“演出” をどのようにとらえて実践に生かすか,映像視聴メモをどのように考えれば良いかといった問題が提起された。
  • セミナーに対する意見等
     セミナー実施後に寄せられた意見等は,主に次のようなものであった。
    (1)放送教育の意義と歴史:回答者の多くが歴史を学ぶことの意義や放送教育の独自性に触れていた。
    (2)教育観:回答者の一部が教育観について議論することの重要性に触れていた。
    (3)番組視聴のあり方:個別最適が重視される時代の視聴のあり方について触れる回答があった。
    (4)放送教育のこれから:放送教育の今後の方向性を見出したいとの回答があった。
    (5)セミナーの進め方:多様な立場・年代の交流のよさ,探究学習での番組活用や他SIGとの連携を望む声もあった。
  • 今後に向けて
     様々なタイプの動画視聴の機会があふれる今だからこそ,「放送番組」の視聴を核とした「放送教育」とは何なのか,再定義や価値の再発見の大切さが確認できた。1人1台端末環境の整備による「視聴形態」の変化のみならず,授業者の「授業観」や番組に対する「価値観」,制作されている「番組の多様性」といった観点から,まずは現状を捉えていきたい。